昨年末に勢いで入札したW215 CL600。同年代のE66 760Liの万能ぶりにすっかり影の薄い存在になり、手元に残そうか、はたまた一台目同様手放そうか思案中である。
先週末、VOLVO XC70の車検の際に、同時に仮ナンバーを取って久々にCL600を運転してみた。すると、今まで抱いていたW220やW215に対してのネガティブなイメージは吹き飛んでしまった。
そこで私は断言したい。「これはまがうことなきSクラスそのものである」と。
私のW215のCL600好きは自分でも不思議で、こんな巨大なクーペの一体どこがいいのかさっぱりわからない。
今の、多くの人が車を選ぶ際のポイントは、「実用性」つまりは、広さと燃費と価格である。しかし、このW215には、どれも当てはまらない。
「実用性」という意味では、スーパーカーには運転する楽しみ、所有する喜び、周りからの羨望と嫉妬など、様々な精神的な実用性がある。また、値落ちが少ないので、下取りもよく経済性も高い。
クーペも二人乗りの大排気量車という共通点はあるが、前者はあくまでも他者の目を意識しなければ成立しないのに対して、クーペはあくまでも自己の満足の探求に向かっている。また、セダンが社会的なヒエラルキーを意識せざるを得ないのに対して、クーペにはそれらを超越した自由なイメージがある。つまり、大型クーペというものは、徹底して前二席の為だけに作られた遊び車なのだ。
金沢にお住まいの
Satoru氏も、ダイムラー・ダブルシックスをメインカーとして、私と同じW220とE66のV12を同時に保有するエンスージアストである。さらにSZ系のベントレーも同時保有するところなど全くの偶然とは思えないほどだ。
さて、W220、W215は大鑑巨砲型のW140の反動で、大幅なダウンサインジングとコストダウンで評論家、自称車マニアからは「SクラスらしからぬSクラス」と呼ばれた。これはW210とW124以前のモデルとの関係に似ている。
では、私なりにこのW220 W215のインプレッションをしてみよう。
まず、私の車両は2000年式の並行輸入車という少々筋の悪い(笑)固体である。整備記録簿もなく取説はドイツ語のものがスペアタイアの中に入っていただけ。しかし、外装はAMG仕様、19インチAMGホイールが足回りを引き締めている。前回の固体は同じく前期型のD車だったが、足回りは明らかに柔らか過ぎた。
そして、チェスナット仕様の内装は、D車には用意されていないそうで、インテリアの豪華さを演出する大きな役割を果たしている。しかし、内装の建てつけはSクラスの名にはふさわしくない部分もあり、これがこのモデルの評判を貶めているのではないか。特に興ざめなのは、センターコンソールの小物入れの蓋の開け閉めの動作感、とりわけカップホルダーがひどいの一言。(これはすでに売却済みの1号機)
しかし、W220は2003年に大幅に改良されかつての名声を取り戻した。同じ12気筒ながら、従来の5.8リッターV12(367ps)からマイバッハ由来の5.5リッターに換装し、ツインターボで過給し最高出力は500ps/5000rpm! そのうえ、わずか1800rpmで81.6kgmの最大トルクを得て、3500rpmまで持続する。0-100km/hは4.8秒と発表される。ポルシェ911ターボの5ATティプトロ仕様が4.9秒(6MTは4.2秒)
W220に対してのシビアな見方は主に前期モデルに対してのものであり、パワーと信頼性を獲得した後期モデルは、メルセデスの歴代のSクラスの中でも出色の存在ではないかと思う。とくに、600は、アウトバーンの王者となるべく作り直されたモデルであり、大げさに言えば全く別のモデルであろう。
では、ここで過去のカーグラフィック誌からの記事を引用してみたい。ライターは大川悠氏である。
「350」「500」の4マティック、そして500psの「600」に試乗したが、パワー、トルクの違いはさておき、メルセデスの高級車づくりのうまさに感心させられた。たしかに6気筒は12気筒よりエンジン音を出すし、4マティックやロングボディは重さを感じさせる。でも驚いたのは、どのモデルもメルセデスの最高級車、いや、高級乗用車に“まさに恥じない乗り味”を示したことである。
それはしっとりした乗り心地であり、やはり絶対的な静かさである。機械や駆動系の圧倒的なスムーズさである。あるいは各コントロールやスイッチ、シートの肌触りや感触である。特に今回からパワーステアリングも改変を受けたようで、遠い記憶にある以前のモデルよりも心なしか重くなった。というよりも路面感覚の伝達が非常に改善された。
そして500psのS600はやっぱり速かった。圧倒的に、息を飲むように速かった。それはむしろトルクの力という感覚で、加速も素晴らしいが、エンジンの力がいつでもどこからでもすぐに取り出せる、その感覚がエキサイティングだった。ターボラグはほとんど感じない。実際は2000rpm弱から過給が立ち上がる。しかし、非常にスムーズに介在してくる。だから本当に静かにのんびり走るのも気持ちがいい。その気なら怒濤のような力で襲いかかってくる。もうそうなればアウトバーンの王者そのものだ。でもそんなに乱暴に運転しなくても、本当によくできた多気筒ターボの味わいというのは、現代のエンジンの最大の魅力であることがわかった。
では、後期型 7速オートマティックを搭載したW215 CL500のインプレッションを引用する。ライターは現在CG編集長の渡辺慎太郎氏。
「贅沢なクルマ」というのはこの世にいくつかあるけれど、メルセデスの「CL」はその代表格と言ってもいいクルマである。ボディサイズは、ベースとなったSクラスよりちょっと短く低くなった程度で依然として大きく、リアシートは付いているものの実質的にはふたり乗り。SLのように屋根が大きく開くこともなければ、フェラーリやポルシェのように「スポーツ」するためのクルマでもない。それなのに、4ドアで同じパワートレインの「S500」の価格が1080.0万円であるのに対して、CL500は150.0万円も高い1230.0万円也。
たとえそれがお節介であろうと余計なお世話であろうと、「なんでそんなに高いのか」「いったい誰が買うのか」という疑問が浮かぶハズ。それでもメルセデスは誇りを持ってCLを生産し、そのCLは世界中でちゃんと売れ、どこかの誰かのガレージに収まっていくのである。個人的な話で恐縮なのだが、CL500は個人的に欲しいクルマの1台である。艶やかで流麗なスタイリングやバランスのよいパワートレインもたしかに魅力的だが、欲しいと思う本当の理由は、正真正銘の「贅沢」というものを味わえるような気がするからだ。でもそのためには、躊躇なく購入できる経済的余裕と、CL500を収める立派なガレージ付き自宅を用意するのが先。贅沢とはつまり、そういうことなのだろう。
エンジン+トランスミッション)……★★★★
CL500のV8は「113型」と呼ばれるユニットで、スムーズな回り方やパワー/トルクのジェントルな出方には定評がある。306ps/5600rpmの出力、2700-4250rpmという幅広い領域で発生する46.9kgmのトルクは、これだけでもう充分にパワフル&トルキー。CL600やらCL55AMGやら、ましてや65なんてまったく必要ないと思った。
今回の目玉商品は、量産乗用車世界初となる7段AT。100km/hの回転数は7速=1500rpm、6速=1700rpm、5速=2100rpmと、特に上の3速の変速比が接近しているから、Dレンジでの5速からのシフトアップはまるでCVTのようで、いまどこに入っているのかほとんど分からない。段数が多けりゃいいってものでもないが、シフトアップがこれまで以上に滑らかだった。あとは説明通り、燃費も本当に向上するならば7段ATはウェルカムである。
(乗り心地+ハンドリング)……★★★★★
ABC(アクティブ・ボディ・コントロール)と名付けられたセミアクティブ・サスペンションは、いまのカタチのCLと共にデビューしたが、現行のCLに装着されているABCは第2世代のもの(新型SLが登場した時にセルフレベリング機構が追加された)。通常、ハンドリングを重視すると硬めの乗り心地となり、乗り心地を重視すると眠たいハンドリングになるが、ABCはハンドリングと乗り心地の両方を高い次元で両立させた、秀逸なサスペンション機構だと思う。自分の運転が巧くなったと錯覚するような安定したハンドリングと、路面状況を問わずフラットライドを保ち続ける乗り心地は、一度経験したら病み付きになる。
乗り味はW220よりもW215のほうが良い。ボディ合成の面ではクーペに分があるのは当然だが、CLは単なるW220の2ドア版というような安直な車ではない。CL(クーペ ラグジュアリー)という名称の通り、世界中の金持ちの好みを熟知しているからこそ、この味わいが出せるのであろう。
BMW E66 760Liに乗った後にCLに乗るとベンツの濃厚さに驚く。ステアリングの感触、ABCの究極の乗り心地、コストのかかったシートの掛け心地、駆動系の滑らかなフィーリングとどこまでも加速し続けるV12エンジン。これでなくては駄目なのよ。