2006年4月30日日曜日

山崎豊子の「船場三部作」を読む


大正生まれで今年で82歳になる山崎豊子氏は現役の作家では最高齢の部類に入るのではないかと思う。山崎氏の最も有名な作品は、かつて田宮二郎が、近年では唐沢敏明が主演した「白い巨塔」であろう。大学病院を舞台に、医学会を厳しく批判したこの作品あたりから、山崎氏の作風は「社会派」と呼ばれるようになっていく。しかし、いつのまにか、人物描写が勧善懲悪的になってしまい、かつての色と欲に翻弄される人間の業が描ききれていないのは残念である。

その後、関東軍の参謀であり、伊藤忠商事を大商社に育て上げた瀬島龍三をモデルにした「不毛地帯」や、中国残留孤児をテーマとしNHKでドラマ化され大きな話題になった「大地の子」、そして日本航空の組合問題と、墜落事故をテーマに企業の腐敗をえぐる「沈まぬ太陽」といった作品が目立つ。しかし、山崎氏の近年の作品は、社会の暗部を鋭くえぐった小説として評価を得ている一方、フィクションに実話を織り込む手法は激しい批判を浴び、その取材方法からも盗作疑惑が取りざたされるなど、毀誉褒貶が激しい作家である。

山崎氏の小説家としての魅力が存分に詰まった作品は、初期の「船場三部作」と呼ばれる「暖簾」「花のれん」「ぼんち」という、戦前の大阪を舞台に、船場商家の厳しい家族制度、特殊な風習を執拗なまでの情熱をこめて描いた作品ではないであろうか。これらの作品を読了して、大阪の旧い文化や価値観が文字通り綺麗さっぱりと消滅してることにあらためて驚かされる。いまや大阪と言えば「吉本興業」と「お好み焼き」しかないのではないか?

ちなみに「ぼんち」は市川崑監督で映画化されており、市川雷蔵、山田五十鈴、若尾文子、京マチ子、越路吹雪、中村玉緒、草笛光子、船越英二という豪華な顔ぶれである。「ぼんち」は、日本映画の黄金期の記念碑的な作品であり、DVD化されているのも幸運であろう。あの「眠り狂四郎」の雷蔵が、コミカルな役どころを演じており、見ものであろう。ちなみに、パッケージ写真で、雷蔵に抱かれているのは草笛光子ですよ。

2006年4月29日土曜日

90年代の伊製スーパーセダンの話

以前、私はランチャ・テーマ・8.32とアルファロメオ164QVを保有していたことがあった。どちらも、相当旧くなってからの、中古車ならぬ大古車で購入したのであるが、いずれ劣らぬ魅力を持った車であった。実はこの二台は、同じフィアット・グループなのでプラットフォームも共通であり、ボディサイズも殆ど同じである。しかし164がアルファ伝統のV6が、そしてランチャ・テーマ8.32はマニア垂涎のフェラーリのV8が搭載されている。この両車の性格の違いは、搭載されているエンジンの違いと言っても過言ではない。インテリアも対照的で、8.32はポルトローナ・フラウ製の皮革シートとウッドの豪勢なつくりであるが、164QVは実に上等そうなレザー張りのバケットシートがおごられ、要所に配された赤パイピングは、この車がただの4ドアセダンではない事を、さりげなく主張している。