もはや、デビューから20年以上の歳月が過ぎ、すでにネオクラシックカーの仲間に入りそうなこのR129であるが、この現代でも十二分に通用する実力と周りの景色を一変させるだけの華を持っていると思うのは、私だけではないだろう。
この91年式の500SLは、普段の駅への往復や、スーパーへの買いものと行った日常的な使用が主である。私が、長距離を走る時は、AMG S600Lか600SELといった、4ドアセダンを使用するし、レストランやホテルなどのちょっと気取った場所へ行く時には、ベントレーを駆り出すことが多い。
しかし、片道200km程度の旅行、それも高速を降りてから、しばらくワインディング・ロードが続くようなコースには、このR129が最高である。
SLの美点として、オープンらしからぬボディ剛性があげられるが、それは現代の基準では、もはや素晴らしいとは言えないが、「十分なレベル」ではないかと思う。
それよりも、この時代のメルセデスでしか味わえない「駆動系」のフィーリングが、この「剛性感」の演出に大いに貢献していると思う。とりわけ、オープン時にその傾向は強く感じられる。
ボディは適度なしなりを許しつつも、オープン時には接合部などからミシリとも不快な音は聞こえてこないのは、やはり大したものだと言わざるを得ない。
緩やかなカーブの続く山道も、最初の「ひと切り」で、ばっちりと決まるし、旋回中は前後の絶妙なグリップで始終安定しているが、コーナーを抜け出る時にアクセルをくれてやると、前期型 5リットル24バルブのDOHCユニットは、野性的な咆哮が上げ、たくましいトラクションを路面にしっかりと伝えつつ、ややドリフト気味に次のカーブまで力強く脱出していく。
R129 SLは、これらのプロセスが極めて安定的、かつなめらかに行える為、ドライバーは優れた空調の効いた室内の中で何の不安もなく、ワインディング・ロードを、鼻歌交じりで駆け抜ける事が出来るのだ。
帰りの高速を全力で走り切った後、真夜中のマンションの地下駐車場で、ソフトトップを閉じてから、改めてこの車を眺めてみる。
「やはりメルセデスベンツは偉大なメーカーだな」、と思うと同時に、SLはそのメルセデスの華であるのだなと、思う。
そして、そんな自分が、ちょっとしたプレイボーイに思えてくるから車というものは不思議である。